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2020.12.03

経営者を「本当の孤独」にしない

更新日:2025年11月2日
※本記事は2019年に公開した内容を再構成し、2025年に加筆・更新しました。

目次

経営者の孤独とは、何か
「まっきーは、社長を本当の孤独にしない人ね」
話すことで、思考は形になる
思考の化学反応が起きるとき
ソクラテスの「産婆術」と、共鳴の対話
経営者に必要なのは、「安心して考えられる場」
社長を「本当の孤独」にしないということ
経営は、対話で進化する

経営者の孤独とは、何か

経営者は、孤独だと言われます。
その言葉を耳にするたびに、私はこう思います。

──本当の孤独とは、
“アウトプットする相手がいないこと”ではないか、と。

会社の中で経営者は、常に判断を迫られ、決断を重ねています。
けれど、その決断の裏側にある迷いや葛藤を、誰かに話すことは意外と難しい。
社員には話せない。
同業の社長には、立場上の本音が言いづらい。
家族に相談しても、具体的な解決にはつながらない。

そんな中で、思考を言葉にする機会を失うこと。
それこそが、経営者を「本当の孤独」にしてしまうのだと思います。


「牧野さんは、社長を本当の孤独にしない人ね」

ある大阪の女性社長から、こんな言葉をいただいたことがあります。

牧野さんは、社長を本当の孤独にしない人ね

この一言が、今も私の心に残っています。

ここ数ヶ月、とある法人の経営陣と一緒に「考える時間」を持っています。
その時間は、何かを決めるための会議ではありません。
経営の方向性や組織の在り方、理念の再確認など、
経営者として“考えるべきこと”を、じっくり言葉にしていくための時間です。

私はただ、問いかけ、聴き、
言葉の奥にある“本当に考えていること”を一緒に探していく。

最近ではこうした時間を「壁打ち」と呼ぶ人もいますが、
私はあまりその言葉を使いません。

なぜなら、単に打って返すだけの時間ではないからです。
そこにあるのは、もっと深いやり取り──
相手の中の答えを、一緒に形にしていく時間です。


話すことで、思考は形になる

経営とは、日々の判断と決断の連続です。
その過程で、多くの社長は誰にも相談できないテーマを抱えています。

しかし、誰かに話すことで、思考は形を持ち始めます。

話すうちに、自分の中の曖昧さが浮かび上がる。
問いを受けるうちに、優先順位が見えてくる。
そして、思考が整理され、方向性が定まっていく。

つまり、「話す」ことは、考えることの一部なのです。

対話を通じて、経営者は自分の中に眠っていた答えを見つけていきます。
そして同時に、話を聴く側である私自身の中にも、
新しい“考えの種”が芽を出します。


思考の化学反応が起きるとき

ひとりで唸っていても出てこなかった答えが、
対話の中でふっと見えてくる瞬間があります。

それは、お客さんの考えの種と、
私自身の考えの種が反応して、
より研ぎ澄まされた答えが生まれる瞬間。

まさに、思考の化学反応です。

この現象は、私が経営者支援をしていて最も好きな時間でもあります。
どちらかが教える・教えられる関係ではなく、
互いの思考が響き合って、
これまでにない発想や洞察が生まれる。

そこに立ち会えるのは、支援者としての大きな喜びです。


ソクラテスの「産婆術」と、共鳴の対話

古代ギリシャの哲学者ソクラテスは、
相手の中にある答えを導き出す方法を「産婆術」と呼びました。

人間の知恵や答えは、外から与えられるものではなく、
本人の中にすでに存在している。
それを引き出すのが“問うこと”の役割だ、と。

私の仕事も、まさにこの「産婆術」に近いと感じます。
相手の中の答えを引き出す“産婆術”であり、
同時に、自分の思考を磨く“共鳴の産婆術”でもある。

相手の思考が動くとき、自分の中の何かも同時に動く。
それが、対話の本当の力です。


経営者に必要なのは、「安心して考えられる場」

多くの経営者が日々の業務に追われ、
ゆっくり「考える時間」を取ることができていません。

でも、本当はそこにこそ経営の本質があります。
数字を分析する時間よりも、
組織の将来を語り、自分の価値観を見つめ直す時間の方が、
経営の質を左右する。

そのために必要なのが、
安心して思考をぶつけられる対話の相手です。

安心して考えを話せる相手がいると、
人は自分の中に眠っていた答えを見つけることができます。
言葉にした瞬間、曖昧だった思考が輪郭を持ちはじめる。
そして、決断の精度が高まっていく。

それはまるで、
頭の中に霧がかかっていた景色が、
一気に晴れ渡るような感覚です。


社長を「本当の孤独」にしないということ

「社長を本当の孤独にしない人」
──この言葉をいただいてから、私はずっと考えています。

孤独を完全になくすことは、たぶんできません。
けれど、「孤立」にはしないことができる。

考えを整理し、
悩みを言葉に変え、
心の中のもやもやに光を当てる。

その時間を共に過ごすことで、
経営者は再び自分の足で立ち、前に進む力を取り戻します。

経営とは、数字や戦略だけではなく、
人の思考と感情の営みです。
だからこそ、孤独の中で考えるよりも、
誰かと一緒に考える時間が必要なのだと思います。


経営は、対話で進化する

経営者にとって、最も重要な資産は「考える力」です。
そしてその力は、対話によって磨かれる

自分の中の考えの種を、言葉にして人に伝える。
相手の問いを受け、また考えを練り直す。
その往復運動が、経営の質を高めていきます。

あなたには、安心して思考をぶつけられる相手がいますか?

もしまだなら、
あなたの中の“考えの種”を一緒に見つけてみましょう。
その瞬間、経営の輪郭が、きっと変わります。