2021.07.09
経営と思想
何年か前のことです。
人口1,000人ほどの沖縄の小さな島で、「離島の資本主義」を持論に奮闘されている社長さんがいます。
もうすぐ70歳を迎えようというお歳です。
経済産業省から「はばたく中小企業・小規模事業者300社」にも選ばれました。
この島へは日帰りができず、一泊しなければなりません。
泊まれば島に数軒しかない居酒屋の一つで、その社長さんと二人で飲むのがこの離島出張中の密かな私の楽しみでした。
また、社長さんが仕事で本島へやって来て泊まるときなんかも、会食の予定がキャンセルされたときなど、代打としてお声がかかります。
飲みながらこの社長さんが何度も口にしていたのが
牧野さん、仕事には思想がなければダメだよ、思想。
牧野さんの思想は何?
でした。
「普通にあるものがない」という離島の厳しい経営環境で、小さな企業がどうやって生き延びていけばいいのか悪戦苦闘しながら模索してきたこの社長さんの経営には、民俗学に造詣が深いことも相まって、なんというか思想性を感じていました。
そうした経営の中から生まれたであろう「離島の資本主義」にもそれを感じていた私は、事業や経営といったところから離れた人生論的な問いかけかと思っていたんです。
その社長さんと飲むときはノートにメモしながら飲んでいたので、「思想」と大きく書いてグルグルと○で囲ったのですが、そのノートもどこへ行ったのか。
ところが、昨日の新聞のコラムに、本田宗一郎さんのこんな言葉が掲載されていました。
社の連中に話をするのはみな、技術の基礎になっている思想についてである。すぐに陳腐化してしまう技術はあくまで末端のことであり、思想こそ技術を生む母体だ。
社員から「オヤジ」と呼ばれ、作業服姿の似合う「技術屋」のイメージが強い方なので、意外でした。
「思想」とは今なら
・パーパス(存在意義)
・ミッション(使命)
・ストーリー(物語)
に相当するだろう、とコラムの執筆者は解説しています。
あの社長が私に問いかけていたのは、こういうことだったんでしょうかね。