2025.10.03
「根を腐らせなければ、花は咲く」――父の教えが支えになった
経営が苦しいとき、人はつい「何を変えるか」に意識が向きがちです。しかし、本当に問われるのは「何を変えずに守るか」なのかもしれません。戦後、何もないところから商いを再開した半兵衛麩。その背後には、父から受け継がれた一つの教えがありました。目に見えない“根”が、老舗を再び立ち上がらせたのです。
目次
何もないところからの再スタート
父が語った「冬の花」のたとえ
理念という名の“根っこ”
変わらないからこそ、判断基準になる
経営を支える養分とは何か
何もないところからの再スタート
戦後間もない頃、半兵衛麩の十一代目、**玉置辰次**さんは、ガスコンロと鍋ひとつから麩屋を再スタートさせました。資金もなければ、職人も機械もない。商売として見れば、限りなくゼロに近い状態だったといえます。
それでも、たった一つだけ、確かに手元にあったものがありました。それが、父から託された“教え”でした。
父が語った「冬の花」のたとえ
父は、こんな話をしてくれたそうです。
「いま、うちは麩を作ろうと思っても作れんのや。誰でも辛いときがある。そのときは、じっと辛抱するんや」。
続けて、こう語りました。
「花咲かぬ冬の日は、下へ下へと根を生やせ。そして雪の水をたくさん吸って、雪が溶けたら、その養分で花を咲かせたらええ」。
さらに父は、その言葉の意味をこう締めくくります。「わしがいま話してるのは、おまえの心の根に養分をやろうとしてるんや。根、つまり“理念”さえ腐らせなければ、必ず花は咲く」。
理念という名の“根っこ”
私はこの話に触れて、三百年企業の経営基盤とは、こういうものなのだと感じました。理念があるから信念が生まれ、信念があるから判断がぶれない。
商売には浮き沈みがあります。しかし、根がしっかり張っていれば、木は簡単には倒れませんし、時が来れば、また花を咲かせることができる。そのことを、父はたとえ話として、息子に手渡していたのだと思います。
変わらないからこそ、判断基準になる
経営の現場では、「こんな時代だから柔軟にやらなきゃいけない」「暖簾や理念にこだわると、変化に乗り遅れる」と言われることもあります。確かに、やり方や形は変えていく必要があるでしょう。
ただ、理念は変わらないからこそ、変わり続ける環境の中で判断基準になります。何を選び、何を捨てるのか。その分岐点で立ち返る“軸”があるかどうかが、経営の安定感を左右するのではないでしょうか。
経営を支える養分とは何か
玉置さんは後に、こう振り返っています。「悔しさも、反骨心も、すべて“養分”になった」「あの一言があったから、人一倍頑張れた」「あれも“ご縁”だったと思えるようになった」。
経営の中で経験する苦しさや失敗は、避けたいものです。しかし、それらをどう受け止め、何に変えていくかで、会社の根は太くも細くもなります。
売上が落ちたとき、人が辞めたとき、新しい挑戦を前に迷ったとき。その判断を支える理念という名の根っこが、会社の足元を静かに支えてくれるのではないでしょうか。
公開・更新履歴
2025年10月3日:公開