2025.10.23
経営者に求められる誠実さ──言行一致と一貫性が生む信頼の力
はじめに
経営の現場では、社長が日々どんな言葉を口にするか、その言葉をどう行動で裏づけるかが、組織の雰囲気や社員の信頼を左右します。経営における「リーダーシップ」とは、単に先頭に立って指示を出すことではなく、自らの言葉に責任を持ち、その言葉を日々の行動で証明することです。
実は私自身、最近とても大きな気づきを得ました。
日本の教育者・森信三と、マネジメントの父・ピーター・ドラッカー。洋の東西を代表する二人が、同じことを語っていたのです。
それは── 「誠実さとは、言行一致である」 ということ。
「誠実=優しさ」「誠実=正直さ」と思い込んでいた私には、強烈な衝撃でした。
誠実とは、言葉と行動にズレがない状態。
この発見をきっかけに、経営者にとっての一貫性や信頼の本質について、改めて考えるようになったのです。
言葉に“体重”が乗る人とは
私の知人に、東京で会社を経営している40代の女性がいます。彼女は8年前、勤めていた会社の危機を救うため、自ら創業の道を選びました。それ以来、試練の連続。経営者として数々の修羅場を経験してきました。
だからでしょうか。彼女の言葉には、いつも重みがあります。私はそれを「言葉に体重が乗っている人」と表現しています。
オンラインで話をしていると、気づけば3時間、4時間があっという間に過ぎてしまう。あるときそのことを伝えると、彼女は笑いながら「私、体重ありますからね?」と冗談を返してくれました。しかし同時に、その言葉の意味を理解し、うなずいてくれたのです。
では、「言葉に体重が乗っている」とはどういう状態なのでしょうか。
● 話す内容に経験の裏打ちがある
● 例え話や表現が的を射ている
● 言動にその人なりの一貫性がある
逆に「言葉が軽い」と感じられる人もいます。
▲ 経験の裏づけが感じられない
▲ 借り物のような表現ばかり使う
▲ 言動に一貫性がない
同じ言葉でも、ある人が話すと心に深く残り、別の人が話すと右から左へ抜けてしまう。違いは「言葉に体重が乗っているかどうか」なのです。
経営者が社員に語りかけるとき、その言葉に“体重”が乗っているかどうか。これは会社の信頼を左右する大切な要素です。
誠実とは「言行一致」である
言葉に体重をのせるために必要なのは、言葉と行動の一貫性です。
この「一貫性」について、私は最近あらためて驚かされたことがあります。
それは、日本の教育者・森信三と、マネジメントの父・ピーター・ドラッカー。洋の東西を超えて、この二人が同じことを語っていたのです。
まず森信三は『誠実』について、次のように説いています。
『誠実』とは、言うことと行うことの間にズレがないこと。
いわゆる『言行一致』であり、随(したが)って人が見ていようがいまいがその人の行いに何らの変化もないことの『持続』をいう。
─『森信三一日一語』
そしてドラッカーはこう述べています。
信頼するということは、リーダーの言うことはリーダーの真意であるということについて確信を持てることである。
それは、『誠実さ』という誠に古くさいものに対する確信である。
リーダーの行動と、リーダーの公言する信念とは一致していなければならないし、少なくとも矛盾してはならない。
─ ピーター・ドラッカー「未来企業」
ここに共通するのは、誠実とは「優しさ」や「正直さ」ではなく、言行一致であるという考え方です。
つまり「誠実な経営者」とは、言葉と行動が一致している人。言い換えれば「一貫性のある人」です。
一貫性は信頼を生む資産
経営者にとって、一番の資産は「信頼」です。
銀行からの融資も、社員からの支持も、取引先との関係も、すべては信頼の上に成り立っています。
では、その信頼はどのように築かれるのでしょうか。
派手な実績や大きなプロジェクトだけではありません。むしろ、日々の言葉と行動が一致しているかどうかという、小さな積み重ねから生まれるものです。
「言うことは言うが、やらない」
「社員には厳しいことを言うが、自分は守らない」
こうした矛盾は、瞬時に社員の心を冷めさせてしまいます。反対に、どんな小さな約束も守り、どんな状況でも自らの信念に基づいて行動する経営者は、自然と社員の尊敬を集めます。
「言葉に体重をのせる」とは、経験を背負い、一貫性を貫き、誠実さを行動で証明すること。その姿勢が、経営者としての最大の信頼資本を築くのです。
誰も見ていないところでこそ試される
森信三は「人が見ていようがいまいが変わらないことが誠実だ」と説きました。
つまり、一貫性は“見えないところ”でこそ試されます。
例えば、
▲「お客様第一」と言いながら、実際は自社の都合を優先する
▲「挑戦を恐れるな」と言いながら、決裁は慎重すぎて前に進まない
▲「現場を大事に」と言いながら、現場にほとんど顔を出さない
こうしたズレは、社員に一瞬で見抜かれます。
口先では立派なことを語っても、行動が伴わなければ信頼は積み上がりません。
逆に、小さな約束を守り続け、信念に基づいた行動を一貫して取る人こそ、本当の意味で信頼される経営者です。
あなたの言葉と行動は一致していますか?
ここで、ぜひ自分自身に問いかけてみてください。
・社員に向ける言葉と、日々の行動は矛盾していないか?
・誰も見ていないときでも、同じ姿勢を貫けているか?
・自分の発する言葉に、経験と一貫性の“体重”は乗っているか?
経営者にとって、言葉は会社の方向性を決める「羅針盤」です。その羅針盤がブレていれば、社員も迷い、組織も揺らぎます。
まとめ
経営における「誠実」とは、言葉と行動の一貫性、すなわち言行一致にほかなりません。言葉に体重をのせるとは、自分の経験と信念を背負い、そのとおりに行動すること。
社員や顧客、取引先は、その一貫性を通じて経営者を信頼します。
信頼は一朝一夕に築けるものではなく、日々の積み重ねによってしか得られません。
経営者としてのあなたの最大の資産は「信頼」です。そしてその信頼は、誠実さ=言行一致からしか生まれないのです。