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「堂々と、生きなさい」――父が遺した“暖簾の誇り”

「堂々と、生きなさい」――父が遺した“暖簾の誇り”

事業承継の本質は、株や設備ではなく、「どう生きてきたか」を受け取ることなのかもしれません。半兵衛麩十一代目・玉置辰次さんが、まだ10代で店を背負った頃。父の死とともに突きつけられた現実と、胸に刻まれた一つの言葉があります。その言葉は、老舗の暖簾が何によって支えられているのかを、静かに教えてくれます。 目次 10代で背負った店と父の死葬儀の場で突き刺さった一言悔しさの中で交わした誓い父が遺した「堂々と生きる」という教え暖簾とは、信用という無形資産 10代で背負った店と父の死 京都の老舗・半兵衛麩の十一代目、**玉置辰次**さんが10代で店を継いだ頃、父はすでに体調を崩していました。戦後の再建は道半ばで、誰よりも店を案じていた父が、ついに亡くなった。そんな日が訪れます。商いとしては、まだ十分に立ち直ったとは言えない状況でした。若くして当主となった玉置さんにとって、父の死は精神的にも、経営的にも、あまりにも大きな出来事だったはずです。 葬儀の場で突き刺さった一言 その葬儀の場で、忘れがたい一言が投げかけられます。同業者からの、あまりにも無神経な言葉でした。「昔は麩屋やったか知らんけど、今はちっぽけな店や。麩屋って言えまへんがな。樒をやるより、金やった方が喜びまっせ(笑)」。すぐそばでそれを聞いていた玉置さんは、悔しさを感じながらも、涙すら出なかったといいます。言い返す力も、状況を覆す実績も、まだ手元にはなかったからでしょう。 悔しさの中で交わした誓い 父の冷たくなった手を握りながら、玉置さんは心の中で誓います。「お父さん、きょうのところは辛抱してな。絶対にこの店、立て直すからな。あんなことを言った人より、立派な麩屋にするからな」。この誓いは、単なる怒りや意地から生まれたものではありませんでした。玉置さんを内側から支えていたのは、父が晩年に語っていた、ある言葉だったのです。 父が遺した「堂々と生きる」という教え 父は、こう語っていたそうです。「うちはよそさんから、後ろ指を差されるようなことは何一つしていない。いまはお金の信用はない。だけども、“家の信用”はある。だから堂々と、生きなさい」。商売ができない時代にも、理念を曲げず、暖簾を汚さなかった。その生き方そのものが、息子に遺された最大の教えだったのではないでしょうか。暖簾とは、看板や歴史の長さではなく、日々どんな判断を積み重ねてきたかの結果なのだと、私は考えています。 暖簾とは、信用という無形資産 父の死後、玉置さんがかつてのお得意先を訪ねて麩を売りに行くと、多くの人がこう声をかけてくれたといいます。「よう辛抱したなぁ」「お父さんとお祖父さんには世話になった。うちでできることなら、なんでも言っておいで」。三百年続く半兵衛麩の「暖簾を守る」とは、人からの信用を守り続けること。その信用は、決算書には載りませんが、非常時にこそ力を発揮する、極めて重要な資産です。経営の現場では、数字や効率が判断軸になりがちです。しかし、長く続く会社を支えているのは、こうした目に見えない信用の積み重ねではないでしょうか。 公開・更新履歴2025年9月29日:新規公開

「闇で売ればええやんか」と言った私に、父は何と言ったか――暖簾を汚さない経営

「闇で売ればええやんか」と言った私に、父は何と言ったか――暖簾を汚さない経営

苦しい状況に追い込まれたとき、人は「正しいかどうか」よりも「生き残れるかどうか」で判断してしまいがちです。戦時中、商売ができなくなった半兵衛麩の当主一家も、まさにその岐路に立たされていました。そこで交わされた、親子の何気ない会話。その一言に、老舗が老舗であり続ける理由が、静かに表れていました。 目次 戦時下で商いが止まった老舗「闇で売れば」という中学生の一言父が守ろうとした暖簾の意味家を売ってでも汚さなかったもの信用は、非常時の判断で試される 戦時下で商いが止まった老舗 京都の老舗・半兵衛麩の十一代目、**玉置辰次**さんが中学生だった頃。戦時中の食料統制により、麩の原料である小麦粉は手に入らなくなり、商売そのものが成り立たなくなりました。追い打ちをかけるように、製造に使っていた機械類も鉄の供出で戦地へ送られ、文字通り「何もできない」状態に追い込まれたといいます。 「闇で売れば」という中学生の一言 同業者の中には、機械を隠して温存し、終戦後すぐに商売を再開した人もいたそうです。また、闇市で小麦粉を手に入れて麩を作り、大きな利益を得た人もいたといいます。そうした話を聞く中で、玉置さんは思わず口にします。「よそみたいに、闇で売ればええやんか」。中学生としては、極めて素直で、現実的な発想だったのではないでしょうか。 父が守ろうとした暖簾の意味 その言葉に対して、父親はこう答えたそうです。「うちは先祖代々、麩というもんのおかげで家がずっと続いてきた。そのありがたい麩を、闇で作って売るなんてこと、できるか。暖簾は絶対に汚したらあかん。そんなことしたら、ご先祖様に叱られてしまう」。私はこの話を読んで、思わず背筋が伸びました。理念や信念という言葉を使わずに、これほど明確に「守る一線」を示す言葉があるだろうか、と感じたからです。 家を売ってでも汚さなかったもの 理念を守ることは、口で言うほど簡単ではありません。本当に守ろうとすれば、生活そのものが成り立たなくなる局面もあります。実際、玉置さんのお父さんは、書画や家財道具を質に入れ、最後には家まで売って借家暮らしになったそうです。それでも、「暖簾を汚さない」という判断だけは曲げなかった。その選択は、短期的には大きな犠牲を伴いましたが、結果として、戦後に商いを再開したとき、大きな支えとなって返ってきます。 信用は、非常時の判断で試される 戦後、再び商いを始めた際、かつての得意先たちはこう声をかけてくれたといいます。「よう辛抱したなぁ」「君とこのお父さんには世話になった」「なんでも言ってきなさい」。信用とは、順調なときではなく、追い込まれたときの判断の積み重ねで形づくられるものなのだと、改めて考えさせられます。目先の売上や流行に振り回されそうになる場面ほど、「この判断は暖簾を汚していないか」「胸を張って説明できるか」と、自分に問い直すことが必要なのではないでしょうか。目には見えませんが、長く続く会社の基盤は、こうした心の中の判断によって、静かに支えられているのだと、私は考えています。 公開・更新履歴2025年9月26日:新規公開

「始末」にこそ、商いの心が宿る――半兵衛麩に学ぶ

「始末」にこそ、商いの心が宿る――半兵衛麩に学ぶ

「新品を下ろす時が始まりで、捨てる時が終わり」。京都の老舗・半兵衛麩に伝わるこの言葉は、単なる節約の教えではありません。モノの使い切り方を通して、商いの姿勢や人の在り方まで問いかけてきます。変えることが称賛されやすい時代だからこそ、あえて「捨てない」という判断に、経営の本質が隠れているのではないでしょうか。 目次 始末という言葉に込められた意味日常のしつけが理念になる瞬間「新しい方がいい」という思考の落とし穴老舗が守り続けてきたもの経営判断としての「まだ使えるか」 始末という言葉に込められた意味 京都の老舗・半兵衛麩の十一代目当主、**玉置辰次**さんが語っていた話に、強く心を引かれました。「新品を下ろす時が始まりで、捨てる時が終わり。だから始末と言うんや」。幼い頃、父親と銭湯に行った際、洗い場で聞かされた言葉だそうです。新しい手拭いを気持ちよく使うだけでは終わらない。汚れれば縫って雑巾にし、さらに油拭きに使い、最後は火種として風呂を焚く。そこまで使い切って初めて「終わり」になる。この一連の流れに、始末という言葉の本来の意味が凝縮されています。 日常のしつけが理念になる瞬間 この話を読んで、私は建具職人だった父の姿を思い出しました。家で使い古したタオルを作業場へ持っていき、穴があき、ボロボロになるまで使い切っていたのです。特別な教訓を語られたわけではありませんが、その背中から「モノをどう扱うかは、人の姿勢そのものだ」と学んだ気がします。半兵衛麩が三百年続いてきた背景にも、こうした何気ない日常の中で理念が伝えられてきた積み重ねがあるのだと思います。理念は掲げるものではなく、使い方や振る舞いとして見せ続けるものなのかもしれません。 「新しい方がいい」という思考の落とし穴 現代の経営環境では、「新しい」「効率的」という言葉が判断を後押しします。まだ使える設備や仕組みでも、「古いから」「時代遅れだから」と手放してしまう場面は少なくありません。もちろん変革が必要な場面もありますが、その判断が安易になっていないかは、一度立ち止まって考える余地があります。変えること自体が目的化すると、本来守るべき価値まで一緒に捨ててしまう危うさがあると、私は考えています。 老舗が守り続けてきたもの 老舗とは、長く続いたこと自体が評価される存在ではありません。「長く続けるために、何を捨てずに守ってきたのか」。その選択の積み重ねにこそ価値があります。半兵衛麩の場合、それは始末の心であり、モノや人との関係を最後まで丁寧に扱う姿勢だったのでしょう。効率や合理性だけでは測れない判断を、日々積み重ねてきた結果が、今の信頼につながっているのだと思います。 経営判断としての「まだ使えるか」 経営の現場では、「そろそろ変えるべきか」と迷う瞬間が何度も訪れます。そのとき、「新しい方がいいか」ではなく、「まだ使えるか」「まだ活かせないか」と問い直してみる。その一呼吸が、短期的な効率ではなく、長期的な信頼を選ぶ判断につながることもあります。始末の心は、節約の話ではありません。モノの始まりから終わりまでを見届ける覚悟を、経営判断に持ち込めるかどうか。その姿勢が、会社の在り方を静かに形づくっていくのではないでしょうか。 公開・更新履歴2025年9月23日:新規公開

話を聞くことは、相手の想いに触れること

話を聞くことは、相手の想いに触れること

実家の商売のことで、お母さんと一緒に相談に来られたある女性がいました。 ネットで検索して、牧野を見つけたんだそうです。 数カ月後にその女性が「今度は両親の会社のことではなく、 自分で事業化したいことがある」と、再び相談に訪れました。 前回も気になっていたのですが、無料で相談にのってくれる公的な機関がいくつもあるのに、なぜ、費用のかかる私のところに来たんだろうと不思議に思い、彼女に聞いてみたんです。 ところが、そうした主な公的機関にはすでに相談に行ってきたとのこと。 ではなぜ? 「牧野さんは、 私たちの話をさえぎらず、 最後まで聞いてくれたから」 話がまだ途中なのに、あれをしたほうがいいとか、これをしたほうがいいとか、教えるんじゃなく、 「牧野さんは、一緒に考えてくれたから」 というのがその理由だそうです。  ☆ 元日本ハムファイターズ監督で現在は侍JAPAN監督の栗山英樹さん。 日ハム時代から、選手にとって話しやすい監督だと言われています。 当の栗山さん本人はというと、日ごろから気をつけているのは相手の話を聞くことだとか。 その理由が 「聞き手にならなければ、 相手の悩みや苦しみに近づくことは できません。」 相手は、話を聞いてもらうことで気持ちが落ち着いたり、心の重荷をほんの少し下ろしたりすることにつながると考えているそうです。 それを、端的にこう表現しています。 「話を聞くということは、 相手の思いに触れることです。」 私も、これからもずっと、そしてもっともっと社長さんの思いに触れていきたい。 あなたは、社員さんの思いに触れていますか? 牧野でした。最後までお読みいただきありがとうございます。

経営理念

経営理念

社長を「本当の孤独」にしない人 / 実績 / プロフィール / 二代目にならなかった物語 ■ お客様と共有するスタンス 勝つことよりも負けないこと ■ お客様と共有する成功の定義 お客様の事業目的の実現 ■ お客様へ提供する価値 社長を「本当の孤独」にしない ■ 経営理念 自利利他(じりりた) 『自利利他』とは、仏教用語で「自らが修行で得たものを他の人のためにも役立てる」ことを意味します。すなわち、私たちがこれまでの研鑽で得た知識・経験・スキル・ノウハウ、さらにこれからの研鑽で加わる新たな知恵も含めて全てをお客様のために役立てます。 さらにこの『自利利他』は、論語の「己立たんと欲して人を立て、己達せんと欲して人を達す(*)」と同じ意味だと考えています。つまり、お客様が成功することが、私たちの成功。そして、お客様の社会貢献を実現することが、私たちの社会貢献なのです。*自分が身を立てようとするなら人を立て、自分が事を成し遂げようとするなら人が事を成し遂げるようにする(論語・雍也第六) 継往開来(けいおうかいらい) 『継往開来』とは、孔子を祖とする儒教の体系化に功績のあった朱熹(しゅき)が残した言葉とされており、「過去から現在に至るまでの歴史を継承しつつ、未来に向けて新たな展開を開くこと」を意味します。創業100年を超える世界中の企業のうち、約40%が日本の企業です。さらに創業200年を超える企業となると65%が日本の企業です。この数字を見るとき、経営の分野においても日本の風土の中に守るべきものがあるはず、という思いが湧いてきます。私たちが生きる『いま』は、『これまで』を生きた人たちの遺産です。先人が残してくれた偉業を受け継ぎ、次の時代へ残すべく『これから』の磨きをかけたい。私たちは、心と技の研鑽を重ねるお客様とともに、技を人に役立て、心を未来へとつなぎ、伝統が大切に受け継がれる社会を目指します。 徳技両成(とくぎりょうなり) 『徳技両成』とは、日本に古くから伝わる教訓の一つで「人が道徳的な価値観を持ちながら、同時に技能や技術を高めること」を指します。「経営」というと知識や方法といったいわゆるテクニックが尊重されがちです。しかしながら、経営にまつわるそうした道具は、使う人の「在り方」次第で、世の中に役立ちもすれば社会に迷惑をかけることになりかねません。切磋琢磨という言葉の意味について中国の古典「大学」によれば「切磋とは学び続けることであり、琢磨とは徳を積むこと」だそうです。私たちは、「知の切磋」はもちろんのこと、「人の琢磨」に一層努めます。 ■ 社是 誠実・公正・感謝 誠実なお客様と、誠実に仕事をする。公正なお客様と、公正な取引をする。誠実・公正なお客様と、一緒に仕事ができる有り難さに感謝する。 社長を「本当の孤独」にしない人 / 実績 / プロフィール / 二代目にならなかった物語