2020.12.05
はじめに補助金ありき。はじめに節税ありき。
「補助金が使えるなら」「節税になるなら」――そんな言葉から始まる相談を、これまで何度も耳にしてきました。補助金や節税は経営にとって大切な手段ですが、それを“主語”にして意思決定をしてしまうと、会社の未来を誤った方向に導いてしまうことがあります。この記事では、実際の相談事例を交えながら、経営判断における「得の優先順位」について考えます。 「補助金ありき」の落とし穴「節税ありき」が招く判断ミス経営の主語を取り戻す「得の優先順位」をどう決めるか 「補助金ありき」の落とし穴 経営相談の現場では、こんな会話に出会うことがあります。 「事務所に看板をつけたいんだけど、補助金もらえる?」「どんな看板なら対象になるの?」「ダメか……じゃあチラシはどう?」 補助金を使うこと自体は悪いことではありません。むしろ、正しく使えば会社の成長を後押しする重要な資金源になります。 ただし、「まず補助金ありき」で考え始めると意思決定の軸が狂う。 補助金には自己負担もあります。であればこそ、“自分のお金を使うつもりで、本当に必要な投資かどうか”を冷静に考えることが欠かせません。 補助金が出るからやる、ではなく、「やるべきだから、その一部に補助金を活用する」。この順番が逆転したとき、経営は迷い始めます。 「節税ありき」が招く判断ミス 同じようなことは、節税でも起きます。 かつて、こんな相談が続いたことがありました。 「今月で決算だけど黒字になりそう。今から黒字を減らすには?」「新しい事業は別会社にしたほうが税金的に有利ですか?」「来月から消費税の課税事業者になる。今月末で会社を閉じて翌月に新会社をつくるのはアリですか?」 こうした質問に私は率直に答えました。 「厳しいことを言うようですが、節税と経営はまったく別の話です。」 節税のために会社を動かすのではなく、会社の未来のために、節税をどう位置づけるか。それが本来の順序です。 相談に来られたのは社長の奥さまでした。節税を優先したときの弊害やリスクを一つずつ丁寧に説明すると、最後には笑顔で、 「ありがとうございました!次は主人も連れてきます!」 とおっしゃって帰られました。この一言が、とても印象に残っています。 経営の主語を取り戻す 誰しも「得をしたい」という気持ちはあります。でも、経営には「得」の優先順位があります。 補助金や節税は、あくまで手段であり、経営判断の主語にしてはいけないものです。 主語が「補助金」や「節税」になっているとき、経営者自身の意思決定は、すでに“外側の制度”に委ねられているかもしれません。 大切なのは、会社が持続的に成長していくために、どんな順番で、どんな基準で投資を判断するか。その軸を取り戻すことです。 「得の優先順位」をどう決めるか 「得」とは、単にお金が残ることだけではありません。たとえば、社員の成長、顧客との信頼、地域とのつながり――こうした“無形の得”こそ、会社を長く続けるための土台になります。 経営の判断に迷ったときは、こう問いかけてみてください。 「この“得”は、5年後・10年後の会社の姿につながっているか?」 補助金や節税も、それを支える一つの道具として使うなら有効です。でも、それを主語にしてしまえば、いつの間にか“制度の都合”で経営が振り回されてしまう。 まとめ 補助金や節税は「目的」ではなく「手段」 自社の未来に必要な投資を、自分のお金のつもりで判断する 経営の主語を取り戻すことで、意思決定の軸がぶれなくなる 「得の優先順位」は、5年後・10年後の会社の姿につながっているかで決める 2020年:公開/2025年11月17日:加筆・再構成